鍼と胃下垂の一例

7寸や8寸の鍼では胃を通過してしまいそうなので、やはり前に使った4寸鍼を使い、
今度は左太乙辺りから鍼を刺入して、胃壁に鍼を巻きつけ、臍の下で膀胱の上ぐらいに左手を当てて「ウンコラセ、ウンコラセ」と引き上げると、
胃は臍の上に来てしまった。
ああっ、こんなに早く胃下垂が治ってしまっては、私が患者さんに、たいした治療もしてないと思われる。
そこで左承満から臍の上にある胃へ向けて刺入し、左手を胃の下部(大弯)に当てて引っ張ると、胃は完全に正常な位置へ上がってしまった。
もうそれ以上、挙がりようがない。ベルトで胃が下がらないように押さえようにも、胃は遥か上にある。
そこで両手を胃の下に当てて、自分の手で胃が戻らないように押さえてもらうことにした。そのまま1時間休憩。

患者さんは、また胃下垂が再発することはないでしょうか?と聞いてきたが、
最初に治療した患者さんが8年ぐらい前だったので、今も再発してないようだから、たぶん大丈夫でしょう。と答えておいた。
本人は、心配だからもう一度来ると言っていたが、未だに3回目の治療を受けに来ないので、恐らく再発していないのだろう。
このようにして2日の診療、3回の治療で、胃下垂はキレイに治ってしまった。






















 これを見た人は、「胃袋に刺鍼するなんて、大丈夫なんだろうか?」と思うでしょう。


 ④胃が重いのは、背中の凝りや頚の凝りも関係していることがある。
 ⑤胃の位置が判らなければ、一杯のお茶を飲み、振動を与えればポチャポチャいうので判る。


 かなり胃に鍼を絡みつけるのはきつい。だから手加減もする。胃を引き上げるときは、時間を掛けて、鍼がすっぽ抜けないようにする。
 正直言って、胃下垂の鍼は、治療は一時間ですが、胃を押さえるのに3時間ぐらいかかります。暇な治療所向き。

最初は怖かったけど、これまで胃に鍼を刺して、死んだ人や、調子の悪くなった人はなし。
















 患者さんと話しているうちに、後天的な胃下垂があることが判りました。後天的な胃下垂は治しやすいです。

 以前は胃下垂の患者は、すべてが本当の胃下垂だったのですが、最近では何人も、胃下垂でないのに
胃下垂の治療してくれ」と来る人が多くなりました。
水を飲ませて胃の位置を確認すると、どう考えても正常位置にある。

「どこの医者が胃下垂だと言ったのですか? レントゲンありますか?」と聞くと、
急にオドオドして「いえ、医者には行ってないのですが。行かないと行けませんか?」という。
「なぜ自分が胃下垂だと思うのですか?」と聞くと、「症状を見ていたら、自分にピッタリなので、胃下垂だと思いました」という。
  

胃下垂を治療して判ったのですが、胃下垂のような胃もたれや食欲不振があっても、胃下垂とは限らないのです。

胃下垂患者の中には、胃下垂治療によって胃が正常な位置になっても、胃もたれや食欲不振の症状が消えない人があります。
そうした人は、首や背中の悪くなった自律神経失調症になっているのです。




  最初は私も不思議でした。確かに胃がミゾオチまで上がっているのに、胃のもたれる位置が臍の上になっただけで、やはり症状は変わらないという。

お姐ちゃんだったので、からだを触りまくって調べたところ、まあだいたい首と背中が悪いのではないかと当たりをつけてはいましたが、
やはり首や背中がカチカチになっていました。
  

首の前には星状神経節という自律神経があり、迷走神経も胃に行っているので、
首が凝ると星状神経節や迷走神経が圧迫されて、胃が重く感じるのです。また背中には自律神経がないのですが、
背骨の裏側には自律神経節があります。その同じ分節(同じ高さ)にある背中の筋肉が凝ると、
その筋肉内を通る神経を圧迫し、その神経が前の自律神経に影響します。自律神経は内臓神経なので、胃腸の働きがおかしくなります。

  


このように背中や首の筋肉が凝ると、自律神経を圧迫し、胃が重く感じたり、蠕動運動しなくなったり、
蠕動運動が過敏になったりします。

その結果、胃に入った食物が消化される間もなく排泄され、そのために太らないので「自分は胃下垂でないか?」と悩む人が結構います。
しかし、そうした人は首や背中への刺鍼で治るもので、胃下垂治療する必要はありません。


当ホームページが胃下垂治療を書き始めたのは四年ぐらい前からですが、最近は胃下垂でない胃下垂患者が増え、そうした症状は胃下垂の治療でなく、
背中や首への刺鍼でよくなるもので、そうした治療は北京堂に限らず、どこの治療院でもやってくれるので、
ワザワザ交通費使って北京堂まで来る必要ないものだということをお知らせします。


  確かに、胃へ直接鍼を入れるなどということは、恐ろしくて「自分は殺人者になりたくない」と思うので、
経験がなければ治療できないようです(私の弟子も恐れてやらないそうです)。

ですから胃下垂とレントゲンで確認された人は治療しますが、最近は勘違いが多いので、確定診断された人のみ治療を受け付けます。

  この胃に鍼を巻きつけて引っ張り上げる治療法は、胃が骨盤内の恥骨まで下がっていれば三回、
臍より5cmぐらい下だと2〜3回、臍と同じ高さか臍より高ければ一回で正常な位置に引き上げることができます。


要は胃を引き上げればよいようで、経穴は関係ないようです。





















 内弟子と外弟子の二人が、胃下垂を引き上げるところを見ていますので、
そのうちに「胃下垂治療は鍼で」という時代になってくるのではないかと思います。
一応、3回やった胃下垂治療の治療効果は、ほとんど100パーセントに近いのですが、
自律神経の働きが悪いと、胃のもたれる位置がミゾオチになり、臍下から変わっただけで、
もたれることは一緒だということになります。

そこで自律神経失調症の人は、自律神経失調症の治療も併用しなければなりません。それは3回ぐらいかかります。

胃下垂は、食道が伸びて胃が下がっていると思われるでしょうが、実際には胃が伸びるため底面が臍下にあり、ミゾオチから臍下まで胃が広がっています。






















知り合いの娘さんが腰痛で来ました。そこの妹が、胃下垂がひどくてミイラみたいだったので、
一緒に来た母親に「妹のほうは、胃下垂じゃないかと思って、治療する必要があると思ったので、
最近は自信が付いたので連れて来てください」というと、
「あんた、何言ってるね。あのあと病院で検査してもらって、胃下垂の治療をしてもらったがね。もう胃下垂も治って結婚し、子供までおるよ」とのこと。
胃下垂で治さねばならないと気になっていましたが、まさか治していたとは思いませんでした。
難病の鍼灸治療に記載されたオリジナルでやったので、かなりしんどかったことでしょう。


この姐ちゃんは、なかなかの美人で、「使用前と使用後の写真を持ってきてください」と母親に頼んだのですが、
その場では「いいよ」と言っていたのに、一向に持ってきてくれません。そこで胃下垂の治療前と治療後の写真はなし。
実を言うと私も、ミイラのような治療前の印象しかなく、普通の体になったところを見ていないのです。
もしかすると、どこかであったかもしれませんが、治療したのは彼女が十八九のとき、私が現在出遭ったとしても、まったく気づかないでしょう。

というわけで島根県では三人の胃下垂を治療しており、その全員が十年しても再発していないことがわかりました。
 ああっ、ちがいました。おっさんだけは四年前の治療なので、二人が約十年間再発していないことがわかりました。

 患者さんは、ほとんど関東方面の人なので、「あとで結果を連絡してください」というのですが、ほとんど連絡してくる人はいません。
 二人だけ治ったことがはっきりしています。


長期間の効果は不明(この患者さんは、千葉県の人で、東京へ引っ越したら再びやってきました。
一年間は治っていたようですが、健康診断で中性脂肪が高いと診断され、ダイエットしたら再び胃下垂になったそうです。
その人は落ちやすいようで、一ヶ月に一度ぐらいは、胃下垂治療に来ます)。しかし、三回治療した人は、胃下垂だけは治っているようです。


















 

1回の治療で胃の下部(大弯)が3.5cmぐらい上がるようです。ですから1度に10cmとか20cm上昇させるのは、無理と思います。
それから、やはり胃壁を貫いた後、胃壁を巻き付けて引っ張るのは、きつい治療らしいです。
これがきつくないという人は1人、きついという人は3人なので、やはり、この胃下垂治療はきついという結論になりそうです。
胃壁を引っ張って胃が上がるのならば、胃カメラに風船をつけて胃内で膨らまし胃袋を引き上げたり、
胃カメラに鈎爪を付けて胃袋を引き上げるという治療法も成立しそうな気がします。
ただ胃下垂といっても、胃が下垂しているわけではなく、伸びているだけなので、風船の膨らまし療法は、引っかかりがないかも。









 これを嫁に報告しましたが、嫁は「なんで胃下垂やと食欲がのうなるんや」と聞く。
そこで胃が上にあれば、胃に入った食べ物は下の十二指腸へスムーズに送られるが、胃が臍より下にあれば、胃がU字管の下にあるようなもので、
胃に入った食べ物は上の十二指腸へ押し上げねばならん。
それが簡単じゃあないので、胃に入った食べ物は出てゆけず、胃の容量分しか食べられないことになる。

「胃壁に鍼を巻きつけて引っ張りあげるとは気色の悪い治療法やの。
だけど胃下垂で痩せてる人は滅多におらん。むしろ太っている人が多い(嫁もデブである)。
胃下垂で食欲がなくなるのなら、逆に臍の下から上向きに鍼を入れ、胃の上を手で押し下げて胃下垂にすれば、デブは痩せるわのう。
そんな胃下垂を治すなど患者の少ないこと考えんと、もっと銭になるようなことを考えなあかんわ」と嫁は言う。













 追伸。これを載せたあと、患者さんからえらい反響がありました。
前の男の患者さんは、それから半年後、「また、あまり食べられなくなった」とのことで、再度の来院をしました。
本人の言うことには、40kgだった体重が50kg台になったとのことでした。
半年後のときは、胃の下部(大弯)が臍の少し上にあったので「あまり下がっていませんが」と言ったのですが、本人が治療してくれと言うことで、
ミゾオチ部分まで戻しました。上にあったため、1回の治療で、よくなったようです。

その後、岐阜、宮城、東京と、相次いで患者さんが訪れました。
岐阜の人は、胃の下部(大弯)が臍の横にあったので、「えっ、これで胃下垂?」と思いましたが、遠くから来られたので治療しました。
後の2人は、骨盤ぐらいまで胃の下部(大弯)が下がっていました。
しかし、最初に私が治療した現地人(島根県人)が、一番程度がひどかったようです。
もう恥骨あたりまで下がっていましたから。ですから東京の人は、若い女性だったため、
もし恥骨あたりまで下がっていたら、肝心なところへ手が当たってしまうのではないだろうか?と焦りました。
しかし2人とも、そこまで下ではなく、まあ骨盤の中でした。

岐阜と宮城の人は、若い男性でした。個人的な趣味はともかく、若い男性は腹筋が強いため、老人や女性と違って胃の下部(大弯)を支えにくく、
中央の腹直筋を避けて、腹横筋から腹直筋を挟むような感じで胃の下部(大弯)を支えないとならないので、
非常にやりにくいことが判りました。いままでは50代の人しか治療しなかったのですが、若い人は腹直筋が堅いということが判りました。
これではベルトのようなもので支えようとしても、腹直筋が梁のように持ち上げるため、ほとんど効果がないでしょう。
また「腹筋を鍛えれば胃下垂は治る」と言われたそうで、ますます強力な腹筋をしているのです。

 この男性2人は、1回の治療で胃下垂が治ると思われていたようで
(私が誤解を招くような書き方をしましたが、この治療法のオリジナルである『難病の鍼灸治療』には3回で1クールと書いてあり、
胃下垂治療の第1号患者さんは6回ぐらい。ここに書いた第2号患者さんは3回治療をし、半年後に1回治療しています)、後は胃下垂治療用の鍼を渡し、
近くで後2回の治療をしてもらうように申し渡しました。

最後の東京の人は、すでに次の飛行機を予約してきたとのことで、私が最後まで治療することになりそうです。




















実際、中国でやっている痩身治療では、入院患者に刺鍼して蠕動運動を活発にさせ、腸が吸収する前に排出させてしまう治療があるそうです。





http://homepage2.nifty.com/pekingdo/ikasui.htm